鈴木惣一朗&直枝政広による新ユニット、Soggy Cheerios始動!

鈴木惣一朗(ワールドスタンダード)&直枝政広(カーネーション)による新ユニット、Soggy Cheerios(ソギー・チェリオス)始動!アルバム『1959』発売決定!鈴木慶一、細野晴臣等豪華ゲスト参加!!

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1959年生まれの鈴木惣一朗と直枝政広、数少ない同世代同士のミュージシャンだが、これまで演奏に於いての接点はほとんどなかった。ふたりがお互いの音楽的ルーツを語り合う中ふと、一緒に音楽を奏でる約束をする。2013年、Soggy Cheerios結成。ふたりの軌跡から生まれるアルバム『1959』は、楽曲も直枝政広と鈴木惣一朗=Soggy Cheeriosによるもの。演奏もほぼ2人が中心となって行われ、直枝と鈴木が交互にメインヴォーカルを担当。アルバムのラストを飾る「とんかつの唄」は川島雄三監督作品「喜劇 とんかつ一代」の主題歌。オリジナルは主演の森繁久彌の歌唱だが、本作では鈴木慶一&細野晴臣によるヴォーカルで堪能する事ができる。

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Soggy Cheerios  『1959』
発売日:2013年7月17日
収録楽曲数:全11曲
P-VINE RECORDS PCD-26054
価格:2,600円(税抜) 2,730円(税込)
初回生産限定スリーブケース仕様


参加ミュージシャン(敬称略):伊賀航、鈴木慶一、藤原マヒト、細野晴臣、松本従子(ノアルイズ・マーロン・タイツ)、山本哲也

【収録曲】
1. ロックンロールが空から降ってきた日
2. 明日も
3. かぜよふけ うみよなけ
4. 知らない町
5. 百八つの窓
6. きみがいない
7. 19時59分
8. ずっとずっと
9. ぼくはイノシシ
10. 曇天 夕闇 フェリー
11. とんかつの唄

Produced and Directed by Soggy Cheerios


■鈴木惣一朗(ワールドスタンダード)Profile
83年にインストゥルメンタル主体のポップグループ WORLD STANDARDを結成。細野晴臣プロデュースでノン・スタンダード・レーベルよりデビュー。95年、ロングセラーの音楽書籍『モンド・ミュージック』で、ラウンジ・ミュージック・ブームの火付け役として注目を浴び、97年から5年の歳月をかけた「ディスカヴァー・アメリカ3部作」は、デヴィッド・バーンやヴァン・ダイク・パークスから絶賛される。近年では、ハナレグミ、ビューティフル・ハミングバード、中納良恵、湯川潮音、羊毛とおはな等、多くのアーティストをプロデュースする一方、2011年夏、自身の音楽レーベル[Stella]を立ち上げた。

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■直枝政広(カーネーション)Profile
1959年生まれ。1983年カーネーション結成。1984年にオムニバス『陽気な若き博物館員たち』(水族館/徳間ジャパン)でソロ・デビュー。同年、カーネーションがシングル「夜の煙突」(ナゴム・レコード)でレコード・デビュー。以後、カーネーションは数度のメンバーチェンジを経ながら数多くの傑作アルバムをリリース。2000年には直枝政広としての初ソロ・アルバム『HOPKINS CREEK』を発表。同時に鈴井貴之初監督作品『man-hole』のサウンドトラックも手がける。2007年に初の著作となる『宇宙の柳、たましいの下着』を上梓。2013年、結成30周年を迎えるカーネーションと並行し、ソロライヴでの活動や執筆等、精力的に活動中。

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【ライナーノーツ】

 去年(2012年)の春、『レコード・コレクターズ』誌の企画で、直枝さんと惣一朗さん(鈴木さん、と書くべきだが、どういうわけか、この人に対しては下の名前のほうが、ぼくにとっては敬意をこめやすい)との対談の企画を構成させてもらった。テーマはポール&リンダ・マッカートニー夫妻が71年にリリースしたアルバム『ラム』のデラックス・エディションについて。おなじ1959年生まれで、当時12歳と思春期のスタートラインに立っていた直枝さんと惣一朗さんにとって『ラム』が自らのミュージシャン人生での重要な作品であることは言うまでもなく、話はことのほか盛り上がった。だが、今鮮明に思い出すのは、その対談がもたらしたてんまつのほう。
 『ラム』に込められたポールのDIY精神が、時代を超えた天啓をあらためてふたりに与えたのか、それとも、一時的に12歳の精神年齢に戻った影響か、放課後の校庭にいるような雰囲気で、惣一朗さんが席から立って帰り支度をしようとしていると直枝さんが呼びかけたのだ。「ねえ、惣一朗くん、今度一緒になんかやろうよ」
 惣一朗さんは「今度きみの家に遊びに行っていい?」と、クラスの違う男の子からいきなり言われたような顔を一瞬だけしたけれど、「う、うん、いいよ」と答えていた。ぼくから見ると、そのちょっとおどおどっとした受け答えもまた、12歳のころの惣一朗さんを想像させるもので、なんだか好ましい印象を持った。それを聞いて、直枝さんも、ニキビができかけて半ズボンを履いていた12歳のころの、うれしそうな顔をした。
 とはいえ、それは大人の社交辞令みたいなもので、本当に「なんかやってる」とは、ぼくは思っていなかった。どうやら、本気でふたりの12歳は目覚めた。長いキャリアはあって、おなじ場所でおなじ音楽を聞いたり見たりやったりしてきたけれど、カーネーションにもワールド・スタンダードにも客演の履歴はない。正真正銘の音楽的初共演が、がっつり一枚のアルバムになってしまった。ゲット・バック・トゥ・1959。いやこれは、生まれた年の生まれた場所から、もしかしたらあったはずの、ふたりのもうひとつの未来を生き直す試み? 1959年生まれのふたりが、もし1971年に出会っていたら? つまりその、あれだ、パラレルでマジカルでミステリーなリアル・ファンタジー。それがSoggy Cheerios。
 なにしろ、このふたり、本気で今さらレノン&マッカートニーの気分で張り合い始めてる。それはビートルズの真似ではなくて、ふたりのカードを惜しみなく切り合うという意味で。藤原マヒト(ピアノ)、伊賀航(ベース)、山本哲也(シンセサイザー)、松本従子(コーラス)と、一部で客演の助けを借りてはいるけれど、それ以外は、ほぼ可能な限りの作詞作曲演奏はDIYでまかなって。(1)「ロックンロールが空から降ってきた日」での惣一朗さんのドラムが湿気のこもった重たくブリティッシュな音で気持ちいいなと思っていたら、ん? コーラスでもしかして歌ってる? (2)「明日も」からは、思い切りリード・ヴォーカルも! 鍛えられた直枝さんの歌声のソウルフルな色気に比べれば、惣一朗さんの唄はずっとか細くて不安定だけど、そのぶん実直で自分がさらけ出されてる。正面に立つことに対しての覚悟が見え隠れする分も含めて、胸を打つ声。直枝さんとのハーモニーもいい。直枝さんと惣一朗さんの"地"のしゃべりの違いを知っている人なら、むしろ普段は直枝さんの何倍も饒舌な惣一朗さんが、歌でこれほど朴訥とした純情を伝えていることにも驚きがあるはず。この反転も、またこのふたりでなくては味わえないサプライズ。
 それにしても、このアルバムの本気が、全篇を聞き直すほどにぼくはうれしい。負けられないと直枝さんは思っていただろうか。この相手なら恥ずかしくても自分を出せると惣一朗さんは思っただろうか。ふたりの本気には、きっと微妙な違いはあって、それが青い火花のように飛び散ったり、おたがいの足りないところをそっと支えたりする。今いる場所は違っても、ふと手の甲に浮かび上がる消せない"しるし"のようなものが、目配せよりも早く互いの意志を通わせる。そして、(4)「知らない町」での「今ここで降りたら 僕はどんな人生を送るのだろう」とふたりが声を重ねる瞬間や、雨の日にひとりでずっとレコードを聞いて煩悩を数えながら、まだ出会ったことのないともだちや知らない未来を思うような(5)「百八つの窓」や(10)「曇天 夕闇 フェリー」に、1959年生まれでもなんでもないぼくがぐっときたりする。知らない過去を奏でながら、結局、ふたりは「もう取り戻せない時間」への愛おしさをまるで未来SFのように歌っていて、それはだれにでも起こりうるセンチメンタルな感情なのだということを、この音を通じてぼくたちはあらためて知らされる。
 たとえば、どすんとくぐもったリズムの、外で降る雨みたいなアコースティック・ギターのカッティングの、歌声や歌詞から染みだす音楽ばかり聞いて苦しくくやしく狂おしくなってひとりで部屋で寝転がってた青春(それを青春と呼ぶならば。ぼくは呼ぶけど)の、もだえそうになるほど濃厚な匂い。その匂いの洪水に埋もれて、ぼくはこの音の海の底までもう何度も沈んで落っこちた。
 おっと、でも、その海の底にあるものを忘れてはいませんよ。そこは、夢の竜宮城だったのか。アルバムの大団円は、1963年制作のケッサク映画『喜劇 とんかつ一代』(川島雄三監督)で、主演の森繁久彌が歌った主題歌「とんかつの唄」。この曲に限って、細野晴臣、鈴木慶一がツイン・リード・ヴォーカルでデュエットでご降臨。おかしくも愛らしく、下世話で温かく、後味がうつくしいこの名曲を、細野さんと慶一さんは、ふたりにとっての校長先生と教頭先生のように神妙に歌う。まるで何十年ぶりに実現した卒業式じゃないかと思えて、笑いながら泣けてきた。
 でも、これで卒業じゃちょっと困る。こんなに濡れる音楽を聞かされたら、Soggy Cheeriosのその先を、もっと知りたくなってしまったから!
 まあ、そんなことは本人たちが一番わかってるのかもしれない。一度知ったらやめられないこの音楽という快楽。とんかつが食えなくなったら死んでしまいたい。それは、過ぎた日の世迷い言じゃなくてさ。
 Soggy Cheeriosのくれる、ずぶぬれのシリアルを食べたい。大人のなかの子供を騒がす、あのシリアル。12歳のふたりが、これさえあればいやなことも忘られた、ひとときの魔法の、あのシリアル。あのSoggy Cheeriosが食べられなくなったら死んでしまいたい。
 そして、こんな音楽が聞けなくなったら死んでしまいたい。

松永良平(リズム&ペンシル)

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