About RAM Information Self liner notes Interview Sample


「子供の頃から、レコードを聴いて“これいい曲だな”って思うと、作曲者やプロデューサーのクレジットとか見てたりしてて。曲を作るってことにすごく興味を持ってたんですよね。子供の頃の、レコードを聴くたびに意識が非日常の世界に飛んでいっ た、あの感覚をみんなと共有できたらいいなっていう気持ちはずっとあって。それを実現するために、全体的なところから自分ひとりでプロデュースするっていうのは……夢でしたね」
 カーネーションのドラマーであり、バンドのディスコグラフィに多くの名曲を加えてきた男、矢部浩志。彼が「音楽を聴きはじめた頃から持っていた夢の総括」と位置づけるのが、ソロ・プロジェクト=MUSEMENT。その記念すべきファースト・アルバム『Randam Access Melody』が完成した。

「タイトルは10年前から考えてたんです。コンピュータのメモリ部分を指す“RAM(Random Access Memory)”という言葉の響きも好きだったし、ランダムに記憶にアクセスするっていう意味もいいなと思って。いつかソロを作るときには使いたいなって温めてた」

 すべての作曲から、アレンジ、プログラミング、ミキシングまでをひとりで手がけ、演奏もごくわずかに参加したゲスト・ミュージシャン以外、ほとんどの楽器を矢部本人が担当した純然たるソロと言える本作。サイケデリックでプログレッシブでインダストリアルでファンキーかつソウルフルな……なんつうさまざまな言葉で形容されてきた70〜80年代の名盤たちを通過し、そこで蓄積された多岐に渡る音楽の記憶に(まさに)ランダムにアクセスしては、まるで脳内でカット&ペーストするように自在につなぎあわされ、ひとつの音楽として形成されていく。だからだろうか、彼の作曲方法は他のコンポーザーとはちょっと変わったスタイルで進められる。

「普通、楽曲をレコ−ディングしていくプロセスっていうのは、曲(メロディ)を作って、アレンジして、楽器を演奏して重ねていって、最後にミックスして……っていう風に進んでいくと思うけど、僕の場合は、それらが全部同時進行で進んでいくんです。たとえば音にエフェクトとかかけますよね? リバーブの減衰の長さとか……僕にとっては、そういうのも全部含めたものが“作曲”であるという意識なんです。譜面上のものだけじゃなくて、楽曲にまつわるすべてのものをひっくるめて作曲だっていうね。そういう意味ではリスナー的な作り方というか。プレイヤーが作ったソロというよりは、プロデューサーズ・アルバムとしての色合いが強いですね」

 そんな“MUSEMENT式楽曲制作法”で生まれた楽曲たちには、矢部ならではの美意識が貫かれている。

「ポップなものっていうのは、相反する要素が共存してないと絶対に成り立たないと思ってるんです。綺麗なものと醜いもの、喜びと哀しみ、あるいはシリアスさと馬鹿馬鹿しさとか……絶対にどちらかひとつじゃ成り立たないと思うし、どちらかに偏ってたらぬるい感じになっちゃう」

 矢部の最大の持ち味である、美しいメロディを紡ぐメロディメイカーとして側面を際立たせるのは、どこか壊れた音色であったり、あきらかにおかしなサウンドのバランスであったり。そんな、いびつでありながらも美しくポップなMUSEMENTの音楽の魅力は、アルバムの大半を占めるインスト曲でも存分に発揮されているが、とくに強烈に体感できるのは、なんと言ってもリード・トラックとなっている「僕の頭はF-WORD」。安藤裕子をフィーチャーしたヴォーカル曲だ。

「歌詞も彼女に書いてもらったんですけど、メロウなディスコ・クラシックという感じのこのトラックのどこかに、怒りの部分を感じたんでしょうね。とにかくこの曲は、安藤裕子さんじゃないとありえなかった」

 可愛さの中にどこか狂気のようなものを孕んだ安藤裕子のヴォーカルと、間奏の部分で雷のようにバカでかく鳴り響くドラム・ソロのストレンジな感覚。一方で一発で耳に残るキャッチーな歌メロや、流麗なストリングスの美しさが共存している、まさにMUSEMENT流ポップの真骨頂と言えるのではないだろうか。

 本作には安藤裕子に加えて、鈴木祥子、武田カオリという個性豊かな女性シンガーをフィーチャー。

「鈴木祥子さんに歌ってもらった〈RED CHERRY & STRAWBERRY〉は、ふだんの祥子さんの曲調とは違う感じで逆手にとって、思い切りキュートな作品になって。武田カオリさんには2曲歌ってもらったんですけど、〈スト−リーズ〉は彼女のスタイルを鑑みて、70年代クロスオーバーのメロウな感じで汗臭くないような、自分の得意なところをそのままやればうまくいくなって。汗臭くはないけど、しっとりと濡れた感じが出てますよね」

 ところで“MUSEMENT”という名前には、音楽の女神(MUSE)が宿されている。それはもちろん本作に参加したMUSEたちに捧げられた言葉でもあるのだが、女性そのものへの思いも込められているようで。

「この世で興味があることといえば、音楽を作ることと女性しかない(笑)。究極のフェミニストですから。今回、母親と子供が抱き合ってる姿をジャケットにしたんですけど、人類はすべて母親から生まれてくるわけで、母親と子供っていうのはすべてを表してるんですよね。それに、台風の名前なんかもそうだけど、音楽にしても何にしても巨大で崇高なものっていうのは、女性のイメージなんですよね。あるいは手に負えないものへの憧れというかね」

 女性同様、音楽も手に負えないもの?

「そうですねぇ……ホントにいい音楽っていうのは、ちょっとやそっとじゃできないものでありまして。音楽も女性も、なめてかかると痛い目に遭いますよ(笑)」




取材・文/宮内 健
(ramblin' 7月末配布号に掲載)


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