Liner Notes & Comments

 アルバム年1作ペースは自分でも驚きだが、曲なら時間さえあえればできるという確信はあった。年間を通して多忙を極めているが、今年の2月あたりから少しずつ作曲を始め、5月の下北沢Gardenでのワンマン公演『Meteo Parkway』ではこのバンドならではのグルーヴとめくるめく明るいサビをもつ「Shooting Star」と"青の時代"その光と影を歌い込んだ「Peanut Butter & Jelly」を披露。その2曲を核に、ライヴの翌週からレコーディングがスタートした。

 テクノっぽい「Girl」、ライヴ定番曲「アダムスキー」に続くパワー・ポップの「ハンマーロック」、1965年あたりのスウィートなR&Bを強く意識した「VIVRE」を録音しつつ、アルバムに足りない数の曲を徐々に揃えていったわけで、ぼくは現場で常に強いプレッシャーにさらされることになった。5月末には「Suspicious Mind」「金魚と浮雲」、今春に福島のいわきで歌った記憶が歌になった「夜の森」と多様な曲生まれたが、6月にもらった10日間の曲作り期間に一気に、華飾を極めた「Please Please Please」、初めから大田くんに歌わせるつもりで作った「Little Jetty」、次世代へのメッセージを込めた「Younger Than Today」をものにし、本作の全貌がようやく見えてきた。やればやるほど意外な表情をした自分が顔を出すので、曲作りが面白くてしかたがなかった。この短いタームだからこそのハイ・テンションな感覚とも言えるのだろうが。

 何でもないと思える日常がどれだけ貴重かは、長く生きれば痛いほど思い知らされるが、さらにやり直す時間はどこにもないという思いが繰り返し歌となって降ってくるようになった。文体も"以前に使った言葉は使わない"といったスタイリッシュな態度を否定し、"重要だと思うことは何度でも繰り返す"ようになってきている。そして生活そのものがファンタジーであることを痛切に感じるのと同時に、一見何でもない色褪せた空の色や、あの都市近郊の疲弊感こそが歌になるという思いも年を追うごとに強くなっている。振り返れば「からまわる世界」('90)、「Edo River」('94)「Garden City Life」('95)、そして前作の「いつかここで会いましょう」(2016)が描いた風景は今も自分の中心世界に存在しているのだった。『Suburban Baroque』(近郊のバロック)というアルバム・タイトルは平熱の街かどの空虚でうつろな視点をさらに強くストレートに示したものになった。

直枝政広 (カーネーション)

Comments

 カーネーションの新作を聴いた。直枝さんの音楽は健在だ。僕の心を捉えるのは、「Younger Than Today」のソングライティング、「Girl」のサウンド・デザイン、そして「夜の森」のメロディーだ。どの曲も官能的なエッジを持っている。言葉だけでは、メロディーだけでは表せない複雑な感情を伴った調べ、記憶の彼方から覚醒を促されるような音楽だ。カーネーションがこれまで積み上げてきた時間と、まだ見ぬ時間に最大の敬意を。

佐野元春

 「夜の森」への偏愛を告白させてください。はじめて聴いた時、胸がいっぱいになりました。『ラント:ザ・バラッド・オブ・トッド・ラングレン』一枚分の効能がこの一曲に凝縮されているような気さえします。それなのにこの気持ちを説明することが出来ない。とてももどかしいのだけど、このもどかしささえ愛おしく感じ、自分を確かめるように何度も、何度も聴いてしまいます。「夜の森」の話だけをしてしまいましたがアルバムを通してアイデアとキュートさに溢れた本当に素敵な作品です。『Shooting Star』ではじまり『VIVRE』で終わる、とても美しい円です。

澤部渡(スカート)

 中年男のサイケデリア爆発で、当方悶絶死しました。48分に渡る音の性教育。または脳内迷宮ドライブの記録。当方ヘトヘトです。

曽我部恵一

 「Please Please Please」にコーラスで参加をさせて頂きました。一聴して、なんて素敵な曲だろうと思いました。甘苦しい青春の煌めきを感じる曲です。直枝さんの声に相応しいヒロインになれるよう、私の中に僅かに育った色気という色気を絞りきり歌いました。

吉澤嘉代子

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